なぜ焼損するの?VT内蔵PASは1相毎の耐圧試験をしてはいけないのか?

高圧受電設備
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どうもじんでんです。今回はVT内蔵PASの耐圧試験についてお話したいと思います。

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VT内蔵PASのとは?

まず始めにVT内蔵PASとは、文字通りVTを内蔵しているPASのことです。

PASにはセットで地絡継電器がついていますが、それには制御電源としてAC100Vが必要になります。近くに変電所があり、AC100Vを簡単にもってくることができるところはいいのですが、PASが設置してある引込柱が構内の端にある場合はこの為だけに電源線を施工する必要がありました。

そこでVT内蔵PASが登場し、内蔵のVTで地絡継電器の制御電源を取り出すことで電源線の施工をしなく済むようになりました。

PASの基本についてはこちらから↓

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VT内蔵PASの耐圧試験の注意事項!

VT内蔵PASは様々なメーカーから発売されており、どの取扱説明書にも「耐圧試験は1相毎の試験を実施しないでください」の旨が記載されております。1相毎がダメなら3相一括で試験しなさいと言うことです。

これを見て1相毎と3相一括でも試験電圧は同じなのになぜダメなのかと疑問に思われると思います。私も始めは何故なのか疑問でした。

色々と調べたりしていると、1つの結論に至りました。

「ケーブルの充電電流によりVTが焼損する!」

「???」ってなりますよね(笑)。これから詳しく解説していきます。

内蔵VTの容量は?

まず初めに内蔵VTの容量について考えてみましょう。PASでは有名な戸上電機製作所の内蔵VTの容量は25VAです。KVAではありませんVAです(笑)。メーカーによる違いもあるかと思いますが、さほど大きな違いはないでしょう。

25VAのVTの一次定格電流を求めてみます。

25VA(VT容量)÷6600V(一次定格電圧)=約0.00379A=3.79mA

そう定格で3.79mAしか流せないのです。これが重要なヒントになっています。

高圧ケーブルの充電電流は?

次に高圧ケーブルの充電電流について考えていきます。なぜ高圧ケーブルがいきなり出てくるのか疑問に思われるかもしれませんが、これも重要になってきます。

高圧ケーブルには対地静電容量があり耐圧試験時には大きな影響を及ぼします。それについては以前、記事にしていますので詳しくはそちらでご覧ください。

仮に引込柱と受電設備が隣同士にある需要家と想定して、高圧ケーブルの仕様を38sqの30mとしましょう。この時の1相当たりの充電電流は…

1.24mA/m(38sqの静電容量)× 30m(長さ)=37.2mA

1相当たり37.2mAとなります。これも重要なヒントになります。

耐圧試験時の電流の流れについて考えよう!

ここまでで導いた数値を実際の耐圧試験の回路図に当てはめて考えてみましょう。

下記の図ではVT内蔵PASに高圧ケーブルを接続した状態で、R相に電圧を印加している状況での電流の流れです。

④はPAS自体の漏れ電流になり、私の経験で2mAとします。①と⑥は電流の行きと帰りなので①=⑥。②と⑤は高圧ケーブルの充電電流となり前で求めた37.2mAとし②=⑤=37.2mAとなります。

全体の電流は…

① = ⑥ = ②+④+⑤ = 37.2mA+2mA+37.2mA = 76.4mA

このような電流の流れが理解できたら、ようやくVTについて考えていきましょう。ここでVTに流れる電流は③になります。③の電流値はいくらになるでしょうか?④のPAS自体の漏れ電流はどの時点で漏れるかは明言できませんし、数値的にも小さいので無視します。

そうなると③=⑤となりますよね。⑤は37.2mAです。ここまでくればお気づきの方もいるかと思いますが、VTの一次定格電流はどのくらいだったか覚えていますか?そう3.79mAです。定格で3.79mAのところに37.2mA流れていますよね!約10倍の電流です。mAなので大した電流ではありませんが、定格の10倍となると話は変わりますよね。

この定格以上の電流が流れることにより内蔵VTは焼損してしまうのです。今回は高圧ケーブルを30mで計算しましたが、これは想定で一番短いほうだと思います。場所によっては100mあったり、電線サイズが大きかったりすればまだまだ電流は増加します。とても内蔵VTは耐えきれません。

焼損に気づかずに試験後に受電して短絡、爆発したなんてケースもありますのでご注意下さい。

ちなみに3相一括で試験すれば図のR相のように、3相ともにPASに到達する前に対地に電流が流れますのでVT自体に電流が流れることはありません。

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もう一つの疑問?

今回の計算で大きい電流は高圧ケーブルの充電電流でした。ならば、VT内蔵PAS単体で耐圧試験を実施する場合は1相毎に実施してもよいのかと疑問になります。

理論的PASは2mA程度なので、単体であれば問題ないと私は思います。しかし3回も試験するのも面倒ですし、少しでもリスクを減らすためには印加点を3相短絡して3相一括での試験をおススメします。

まとめ

  • 内蔵VTの容量は25VA程度で一次定格電流は3.79mA。
  • 高圧ケーブルの静電容量による充電電流の影響で焼損する。
  • 単体では1相毎でも大丈夫と思われるが、意味が無いので3相一括での試験がいい。

今回はVT内蔵PASの耐圧試験について記事にしました。

この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。

この記事を書いた人
じんでん

当サイトの運営者。
電気設備の保守管理の仕事に携わっています。専門知識ってネットでは出てこないか、難しすぎるって場合がおおくないですか?そこで私は電気関係の仕事で役立ちそうな情報を簡単に分かりやすく発信しています。
〔保有資格〕
・第3種電気主任技術者
・第1種電気工事士
・消防設備士

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コメント

  1. はじめまして。
    とても勉強になる解説ありがとうございます。
    単相ずつ耐圧してはいけない理由が分からず疑問に思っていたのですが解決できました。
    一つ確認なのですが三相一括でかけた場合はケーブルの充電電流と試験器の間で電流が流れるだけで、VTには電流は流れないという解釈で良いでしょうか?

    • ふるたさま
      コメントありがとうございます。
      お役に立てて嬉しいです。
      三相一括であればVTには電流は殆ど流れません。これはVTの両端が同電位になる為です。
      おっしゃる通りケーブルの充電電流は、試験用変圧器とケーブル間に流れます。

      • ご回答ありがとうございます。
        よく読んだら後半のほうに答えが書いてありましたね…。
        よく読まずに質問してしまいお手数をおかけしました。
        引き続きよろしくお願いいたします。

  2. 勉強させていただいております。
    教えていただきたいことがあります。
    耐圧試験ではなく、ケーブルの絶縁抵抗(メガー)を実施することについては
    問題ありませんか。
    例えば、ケーブルの絶縁が問題ないか各相毎に1000Vメガーをかける場合、少なからず充電電流は発生すると思いますが、そこは短時間のため問題ない。という理解で良いのでしょうか。

    • かいさま
      コメントありがとうございます。

      ご質問のVT内蔵PASの絶縁抵抗測定についてですが、結論から申し上げると問題ありません。
      理由として、絶縁抵抗測定の電圧は直流電圧なので、充電電流がかなり少ないです。
      これにより電流がほとんど流れないので、気にする必要はありません。

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