どうもじんでんです。今回はZCTと高圧ケーブルのシールドアースの関係ついての記事です。これを理解していないと、地絡事故時に地絡継電器の不動作などに繋がります。
高圧ケーブルのシールドとは?
高圧ケーブルには「遮蔽層」と呼ばれるものがあります。これを「シールド」とも呼びます。この記事では一般的なシールドで統一します。シールドの役割や目的は次の事が挙げられます。
- 絶縁体に加わる電界の方向を均一にして耐電圧特性を向上する
- 介在物に電界が加わる事でtanδが大きくなるのを防止する
- ケーブル終端接続部で接地する事で感電防止になる
- 相間の短絡事故を防止する
- 地絡時の電流の帰路となる
この様に色々な役割がありますが、今回の内容で大事なのは最後の「地絡時の電流の帰路となる」です。
シールドの接地方式の種類
高圧ケーブルのシールドは接地する事となっています。その接地方式は2種類あります。
- 片端接地
- 両端接地
それぞれについて解説します。
片端接地
一般的な接地方式です。基本的にはこの方式を採用します。
高圧ケーブルの片側のみを接地します。もう片側は接地されない様に、絶縁テープなどで絶縁しておく必要があります。
両端接地
高圧ケーブルの両端を接地する方式です。高圧ケーブルの亘長が長い場合に採用されます。高圧ケーブルの亘長が長いと、非接地側に誘導電圧が発生して危険になります。これを防ぐ為に両端接地をします。
この方式を採用すると、次の問題が発生します。
- 地絡電流が分流するので、地絡継電器の検出精度が低下する
- 両端に電位差が発生すると電流が流れる
- 上記の電流により地絡継電器の誤動作やシールドの焼損に繋がる
これらの理由より、基本は片端接地が採用されます。両端接地を採用する場合は、慎重に検討する必要があります。
ZCTとは?
これについて詳しくはこちらの記事をご覧下さい。
ZCTとシールドの接地線の関係
ZCTは地絡電流を検知する機器と説明しました。その為に、三相を一括でZCTに通す必要があります。
高圧回路では短絡などの危険がある為に、電線は相間を離隔して設置してあります。この為にZCTの設置は容易ではありません。
しかしこれを解決するのは、ZCTを高圧ケーブル部に設置する事です。高圧ケーブルならば相間の絶縁が保たれるので、安全にZCTを通す事ができます。
しかし高圧ケーブルの構造から注意して設置しないと、思った通りの地絡電流の検知ができない場合があります。
高圧ケーブルの地絡時の電流の流れ
通常は地絡が発生すると、地絡点から電流が大地に流れます。これによりZCTに流れる、行き帰りの電流のバランスが崩れて地絡電流を検知します。
しかし高圧ケーブルで地絡が発生すると、少し特殊な流れになります。
高圧ケーブルの絶縁物が劣化して地絡したとします。そうするとシールドが接地されているので、地絡電流はシールドを通って大地に流れます。
次の画像がそのイメージ図です。
なぜ注意が必要か?
まず高圧ケーブルを片側接地して、ZCTを設置した回路を次の図に表します。
この状態で高圧ケーブルにて、地絡が発生した場合の電流の流れを考えてみましょう。
お気づきの方もいるかもしれませんが、地絡電流がZCTに往復していますよね。これではZCTからみれば±0で、地絡電流が検知できません。
これが注意が必要になる理由です。
解決法
先程の地絡電流を検知できない問題を解決する方法があります。
それはシールドの接地線をZCTに通してから、接地する事です。
イメージ図は次の通りです。
これにより電流の行き帰りで打ち消されても、シールドの接地線の分で地絡電流を検知できます。
また、この時にZCTの向きに注意が必要です。シールドの接地線のケーブル側が「K」、接地側が「L」になる様に設置しましょう。
ZCTの設置場所と保護範囲
高圧ケーブルにZCTを設置する場合は、シールドの接地線を通す必要があると説明しました。しかしこれは絶対という訳ではなく、保護範囲が変わるので注意が必要ということになります。
またZCTの設置場所によっても、先程の処置が必要かどうかが変わります。
シールドの接地線をZCTに通すのは、その高圧ケーブルを保護範囲に入れるか入れないかの違いになります。通すと保護範囲内、通さないと保護範囲外となります。
いくつかの例を挙げます。
例1
メイン受電所からサブ受電所への送り回路の地絡保護を、メイン受電所でする場合。
このように設置すれば、高圧ケーブル以降の地絡を検知して保護することができます。
仮にシールドの接地線をZCTに通さないと、高圧ケーブルの地絡は検知できません。その為に高圧ケーブルが地絡すると上位の地絡保護が動作します。
例2
サブ変電所で地絡保護をする場合で、シールドの接地がメイン受電所の場合。
この場合はサブ変電所の地絡保護がしたいので、高圧ケーブルの保護は必要ありません。なのでシールドの接地線の処置は必要ありません。
例3
サブ変電所で地絡保護をする場合で、シールドの接地がサブ受電所の場合。
この場合は少し特殊なパターンです。ZCTに通さずに設置すると地絡電流はシールド分しかないので、高圧ケーブルの地絡でも検知してしまいます。また検知して遮断器を開放しても、地絡点は上位の為に除去できずに上位の保護装置が動作します。このような動作をすると、事故調査時に混乱を招く為あまりよろしくないですね。
これを解消するためには、画像のようにZCTにシールドの接地線を通すことです。しかし通常とは逆で、シールド接地線の「高圧ケーブル側がL」「接地側がK」となるように設置します。シールド接地線で、シールドに流れる地絡電流をキャンセルしているイメージです。
また上記のようなことをしなくても、シールドをメイン受電所側で接地すれば例2と同じになり解決できます。可能ならこの方法を採用すべきです。
まとめ
- 高圧ケーブルのシールドは、地絡電流の帰路となる
- 高圧回路においてZCTは高圧ケーブル部に設置される
- 普通に設置するとシールドに流れる地絡電流で打ち消され検知できない
- 検知する為にシールドの接地線をZCTに通す
- 「通す」「通さない」で保護範囲が変わる
ZCTへの高圧ケーブルのシールド接地線の施工は、よく間違いがあります。特に竣工検査や取替工事の時には注意して確認が必要です。間違えると保護範囲が変わり、思った通りに地絡継電器が動作しません。間違いがないように理解しておきましょう。
この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。
コメント
baldと申します。
いつも参考にさせて頂いております。
今回もとても分かりやすい説明で、大変勉強になりました。
ただ、1箇所分からない部分があったので、質問させて頂きます。
「ZCTの設置場所と保護範囲」→「例3」ですが、この場合、逆にケーブルの地絡を拾ってしまうように思いました。
高圧受電設備規程2014年版p469に今回のテーマと同様のことが書かれてまして、そこでも「例3」の接地方法だとケーブルの地絡も検出すると書かれています。
私が間違ってる可能性もありますが、一度確認されたほうがよいと思います。
baldさま
コメントありがとうございます。
いつも当ブログを読んで頂きありがとうございます。
ご指摘ありがとうございます。確かにおっしゃる通りで、私の説明に間違いがありました。
今は修正して正しい内容になっていると思います。
よく確認せずに投稿し、混乱を招いてしまい申し訳ございませんでした。
今後も間違いや疑問に思うことがあれば、遠慮なくコメント下さい。
よろしくお願い致します。
いつも勉強させていただいてます。
この記事で、ケーブルシールドアースの両端接地の事が記載されていますが、高圧ケーブルの延長はどれぐらいでしょうか?
だいたいでもいいので教えていただけますでしょうか。
いだてんさま
いつも当サイトをご覧いただきありがとうございます。
また返信が遅くなり申し訳ございません。
質問の件について回答します。
両端接地を採用するポイントは、シールドに発生する誘起電圧の大きさです。
これはケーブルのサイズ(誘導リアクタンスの関係)及び通電電流が関係してきます。
おおよそ38sqの100mのケーブルで、許容電流の180Aが流れた時で約1V発生します。
三相短絡時は短絡電流に影響され70~80Vまで上昇します。
この誘起電圧の大きさの制限に規定はありません。
目安として通常状態で、25V~50V以下にする場合があります。
これはで低圧電路地絡保護指針(JEAG 8101)の許容接触電圧を元にしています。
25Vで抑えようと思えば、先ほどの例に当てはめると約2.5㎞までは大丈夫となります。
しかしケーブルのサイズや電流が変われば変化するので注意が必要です。
また、まだ低く電圧を制限(数V程度)しようとと思えば、ガクッと延長が短くなります。
他にも迷走電流や循環電流、雷サージ電圧の観点からも検討が必要になるので、非常に難しい判断になります。
以上、質問の件についての回答でした。
今後、これについても記事にまとめようかと思っています。
よろしくお願い致します。
いつも勉強させてもらっております。
初歩的な質問で申し訳ないのですが、
なぜ注意が必要か? という箇所で、
“ZCTからみれば±0で、地絡電流が検知できません。”とありますが、他の2相とのバランスが崩れてZCTが感知してしまうのではないかと思いました。
これについて、教えていただけると幸甚です。
電気初心者さま
コメントありがとうございます。
1相の地絡で考えると、地絡した相に向かって他の2相分の対地静電容量に比例して電流が流れます。
健全相2相分の電流は電源側へ、地絡相にはその2相分の電流が地絡点に向かって流れます。
よってZCTで見れば±0となります。
これを検知する為に、シールドの接地線を通す必要があります。
難しい内容で、言葉で説明するのは難しいですが、何となく理解できたでしょうか?
今後、質問の内容を図にして解説したいと思います。
じんでんさま
いつも勉強させて頂いております。
例3について、「ZCTは図の左側がL、右側がKとなるように施工」と解釈しました。
上記の解釈で問題ないでしょうか?
読み取り方が誤っているやもしれず、確認のためコメントさせて頂きました。
仮に私の解釈で施工した場合、サブ変より下流の地絡をDGRがもらい事故と判断し、動作しないのではないか?と考えております。
ごじゃさま
コメントありがとうございます。
例3については、左側がKで、右側がLとなります。
逆になるともらい事故と判断して、DGRが動作しません。
ケーブルの途中で地絡したと仮定すると、地絡電流はシールドを通して接地点へ流れます。
ZCTで見るとケーブル内のシールドを通過(K→L)し、シールド接地線(緑)で再度通過(L→K)となってキャンセルされて0となり、
高圧ケーブルの地絡では動作しません。
VCB以下で地絡が発生すると、地絡電流が高圧ケーブルの心線を通り、ZCTを通過(K→L)して地絡点へ流れます。
この様な感じとなります。
じんでんさま
早速のご返信ありがとうございます。
ZCTの施工の向きについて読み違えをしており大変失礼いたしました。ご解説にも感謝しております。
違和感の雲が晴れました。ありがとうございます。
お役に立てて嬉しい限りです。
今後も何か疑問があれば、遠慮なくコメント下さい。