どうもじんでんです。最近のPASは、VT内蔵のものをよく見るようになりました。そんなVT内蔵PASの絶縁耐力試験には注意事項があるのを知っていますか。
それは1相毎の試験を実施してはいけない、3相一括で試験することです。これは取扱説明書にも記載されており、メーカーも注意事項として周知しています。
これを守らずに、誤った方法で絶縁耐力試験を実施すると短絡などの大きな事故を招く可能性があります。
これについて知っている人も多いと思いますが、なぜそのようになっているかまで理解していますか。今回は、そんなVT内蔵PASの絶縁耐力試験の謎について解説します。
VT内蔵PASとは?
まず始めにVT内蔵PASについて簡単に説明します。文字通りVTを内蔵しているPASです。
このVTは、SOG制御装置の電源として利用します。
PASにはセットでSOG制御装置が設置されます。また、このSOG制御装置には電源が必要です。従来は高圧受電設備の変圧器二次から、この電源を取り出していました。
しかし高圧受電設備とPASが設置される引込柱が離れている場合は、その電源の施工が必要でした。VT内蔵PASでは、PASからSOG制御装置の電源を取り出せるので、電源線の施工が不要となります。
また変圧器二次からよりPASから電源を取り出す方が、保護装置としての確実性も向上しています。
VT内蔵PASは3相一括で試験しないといけないのか?
VT内蔵PASは様々なメーカーから発売されており、どの取扱説明書にも「耐圧試験は1相毎の試験を実施しないでください」との旨が記載されています。1相毎がダメなら、3相一括で試験しなさいと言うことです。
1相毎でも3相一括でも試験電圧は同じなのに、なぜダメなのかと疑問に思いますよね。私も疑問に思っていました。
このVT内蔵PASの絶縁耐力試験の謎の理由は次の通りです。
これだけ聞いても理解できないですよね。ここから順を追って解説します。
内蔵VTの容量は?
まず始めにPASに内蔵されているVTの容量は、どのくらいか知っていますか?
メーカーによっても違いはあるとは思いますが、PASの代表的なメーカーの戸上電機製作所のものではどうなっているでしょうか。
その容量は25VAです。kVAではありませんVAです。
他のメーカーも大差はないでしょう。
この内蔵VTの一次側の定格電流はどのくらいでしょうか。計算で求めてみます。
このように一次側定格は3.79mAとなっています。
この値が、重要なヒントになってくるので覚えておいてください。
高圧ケーブルの充電電流は?
次に高圧ケーブルの充電電流について考えていきます。なぜ、いきなり高圧ケーブルの話が出てくるのか疑問に思われるかもしれませんが、これも重要になってきます。
高圧ケーブルには対地静電容量があり、絶縁耐力試験時には大きな影響を及ぼします。それについては以前、記事にしていますので詳しくはそちらでご覧ください。
仮に引込柱と高圧受電設備が隣同士にある需要家と想定して、高圧ケーブルの仕様を38sqの30mとしましょう。この時の1相当たりの充電電流は次のようになります。
1相当たり37.2mAとなります。
これも重要なヒントになります。
絶縁耐力試験時の電流の流れについて考えよう!
ここまでに導いた数値を、実際の絶縁耐力試験の回路図に当てはめて考えてみましょう。
下記の図では、VT内蔵PASに高圧ケーブルを接続した状態で、R相に電圧を印加している状況での電流の流れです。
④はPAS自体の漏れ電流になり、私の経験で2mAとします。
①と⑥は電流の行きと帰りなので①=⑥。②と⑤は高圧ケーブルの充電電流となり、前で求めた37.2mAとし②=⑤=37.2mAとなります。
全体の電流は…
① = ⑥ = ②+④+⑤ = 37.2mA+2mA+37.2mA = 76.4mA
このような電流の流れが理解できたら、ようやくVTについて考えていきましょう。ここでVTに流れる電流は③になります。③の電流値はいくらになるでしょうか?④のPAS自体の漏れ電流はどの時点で漏れるかは明言できませんし、数値的にも小さいので無視します。
そうなると③=⑤となりますよね。⑤は37.2mAです。ここまでくればお気づきの方もいるかと思いますが、VTの一次定格電流はどのくらいだったか覚えていますか?そう3.79mAです。定格で3.79mAのところに37.2mA流れていますよね!約10倍の電流です。mAなので大した電流ではありませんが、定格の10倍となると話は変わりますよね。
この定格以上の電流が流れることにより内蔵VTは焼損してしまうのです。今回は高圧ケーブルを30mで計算しましたが、これは想定で一番短いほうだと思います。場所によっては100mあったり、電線サイズが大きかったりすればまだまだ電流は増加します。とても内蔵VTは耐えきれません。
焼損に気づかずに試験後に受電して短絡、爆発したなんてケースもありますのでご注意下さい。
ちなみに3相一括で試験すれば図のR相のように、3相ともにPASに到達する前に対地に電流が流れますのでVT自体に電流が流れることはありません。
もう一つの疑問?
今回の計算で大きい電流は高圧ケーブルの充電電流でした。ならば、VT内蔵PAS単体で耐圧試験を実施する場合は1相毎に実施してもよいのかと疑問になります。
理論的PASは2mA程度なので、単体であれば問題ないと私は思います。しかし3回も試験するのも面倒ですし、少しでもリスクを減らすためには印加点を3相短絡して3相一括での試験をおススメします。
まとめ
- 内蔵VTの容量は25VA程度で一次定格電流は3.79mA。
- 高圧ケーブルの静電容量による充電電流の影響で焼損する。
- 単体では1相毎でも大丈夫と思われるが、意味が無いので3相一括での試験がいい。
今回はVT内蔵PASの耐圧試験について記事にしました。
この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。
コメント
はじめまして。
とても勉強になる解説ありがとうございます。
単相ずつ耐圧してはいけない理由が分からず疑問に思っていたのですが解決できました。
一つ確認なのですが三相一括でかけた場合はケーブルの充電電流と試験器の間で電流が流れるだけで、VTには電流は流れないという解釈で良いでしょうか?
ふるたさま
コメントありがとうございます。
お役に立てて嬉しいです。
三相一括であればVTには電流は殆ど流れません。これはVTの両端が同電位になる為です。
おっしゃる通りケーブルの充電電流は、試験用変圧器とケーブル間に流れます。
ご回答ありがとうございます。
よく読んだら後半のほうに答えが書いてありましたね…。
よく読まずに質問してしまいお手数をおかけしました。
引き続きよろしくお願いいたします。
勉強させていただいております。
教えていただきたいことがあります。
耐圧試験ではなく、ケーブルの絶縁抵抗(メガー)を実施することについては
問題ありませんか。
例えば、ケーブルの絶縁が問題ないか各相毎に1000Vメガーをかける場合、少なからず充電電流は発生すると思いますが、そこは短時間のため問題ない。という理解で良いのでしょうか。
かいさま
コメントありがとうございます。
ご質問のVT内蔵PASの絶縁抵抗測定についてですが、結論から申し上げると問題ありません。
理由として、絶縁抵抗測定の電圧は直流電圧なので、充電電流がかなり少ないです。
これにより電流がほとんど流れないので、気にする必要はありません。